蝉助

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空虚。
空の虚ろと書いて、「なにもない」と言う。
でもその言葉は本当にその通りで、確かに空には何も無い。
溜め息を吐きたくなるほどの青も、人の虹彩によって作られた幻のようなものだ。
そこに実際に青が溜め込まれているわけではない。
虚しいと思う。
空を見ると心がひどく切なくなって、呼吸がしにくくなってしまう感覚を覚える。
太陽の儚い眩しさが、もくもくと伸びる雲の白さが、俺に訴えかけ、ひとつの記憶をカセットテープのように巻き戻して再生するのだ。
なあ、全てがお前のせいだよ。
篤司。

篤司は俺の……なんだったのだろうか。
中学からの知り合いは幼馴染と言うべきか。
一度も二人きりで遊んだことがないのに友人と言うべきか。
分からない。
ただまだあどけない中学二年生のたった一年間、俺たちは同級生として同じ教室にいた。
篤司は俺の前の席に座っていて、周りに溶け込まないかのように熱心に授業を聞いていた。
真面目な奴だった。
それこそクラスの委員長を引き受けるような積極性はないが、黒板から振り返った先生がたじろぐほど、じっと真っ直ぐにその目を前へ向けていたのが印象的だ。
そして、俺はそれを面白いと思った。
俺は決して模範的な生徒ではなかった。

7/17/2024, 6:13:11 AM