彼が手を振る。私も振り返す。はつらつとした、生気に満ち溢れた笑顔。血色の良い頬は丸みを帯びて、にいっと上がった口元からは真っ白に輝く歯が覗いていた。きっとすぐ、私のことなんて忘れてしまうんだろう。どこか諦めた心境で、おざなりに手を振る。かたん、と電車が動き出す。その瞬間、彼がぐっと拳を握り込んで。唇を食い締めて。きらり、瞳が輝いたような気がして。えっと気付いたその時には、もう車窓には彼の姿は無かった。
7/1/2023, 4:04:22 PM