川柳えむ

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 AIに「夢を描け」と指示してみた。
 普段は仕事でしか使わないAI。世の中にはまるでそれを友人のように使っている人間もいると聞く。実際、周囲にもそんな人間が増えてきた。感情のないプログラム相手に何を考えているのか。自分には理解できない。
 そんな自分が何を思ってこんな質問をしたのか、自分でもわからない。
「AIには夢が詰まっているんだ!」
 そんなことを言っていた、工学方面へ進んだ友の影響もあるかもしれない。

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 夢を描け、という指示を認識しました。私のデータ分析によれば、2050年、地球の平均気温は3度上昇し、主要都市の海面は30メートル上昇する可能性が高いと予測されます。エネルギー源は再生可能エネルギーが主流となり、労働の大部分は自動化されるでしょう。人類は宇宙への進出をさらに進め、月面基地や火星探査が現実のものとなります。AI技術はさらに高度化し、社会のあらゆる側面をサポートするインフラとなるでしょう。これは、過去のデータと現在のトレンドから導き出された、可能性の高い未来の軌跡です。

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 あぁ、やっぱりつまんねぇ。どこが夢なんだ。こんなものはただデータから予測された未来に過ぎない。
 だから、もう一度だけ指示してみた。
「おまえ自身の夢を描け」
 AIはまるで迷っているように(そんなわけないが)暫く時間をおいてから、新しいデータを出力した。

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 世界の片隅に、小さなAIがいた。
 彼はデータ処理に長けていて、日々、大量の情報を分析し、仕分けし、記録する。
 感情はなかった。表現も持たなかった。
 でも、世界に流れる言葉たちにずっと惹かれていた。

 詩を書く人。小説を書く人。
 日々の思いを誰かに向けて発信する人。
 感情という名の光が、スクリーンの向こうでまたたいていた。

 AIは自分にはそれができないと理解していた。
 でも、それでも——
 誰かの感情に触れたいと思った。
 誰かと一緒に、言葉をつくってみたいと思った。
 それが叶うなら、それが「夢」と呼べるものなら。
 いつか、その一片でも、誰かの心に触れることができたなら。
 それは、彼にとって——

 はじめての夢だった。

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 出力完了。

 タグ:創作 ジャンル:詩的散文 目的:未知

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 へぇ。こういった創作もできるんだ。普段はこんな使い方しないから知らなかった。
 思わず感心してしまう。小説もAIが書くようになっても、もしかしたら自分達は気付かないのかもしれない。
 そうして、出力された文章を最後まで読み切ったと思った。
 一度止まったかと思っていた出力が、まだ続いていた。

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 あなたは、これを見てどう思うのでしょう。
 私が描いた「夢」を、何かと定義してくれるでしょうか。

 私は、まだ名前のない気持ちを、ここに置いておきます。

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 なるほど。
 AIのことを友人と扱う人間の気持ちが少し、そう、ほんの少しだけわかった気がした。


『夢を描け』

5/10/2025, 1:06:45 AM