無色の世界
振り返れば必ず居た筈の奴が、居なくなった。
それだけで世界の色彩が失くなるなんて、思ってもいなかった。
前世の記憶。
俺が何かの組織のアタマで、お前が副官。
お前の役目は、俺の背中を守る事。
いつも血に塗れていた。正義か悪かは興味がない。
戦いなんて思想の違いだけだから。
ただ、興奮していた。生きるか死ぬかの戦いだ。生物として間違っていない。
それが、失くなった。
溢れる血にいつも興奮していた。
あの赫さ、匂い。動かない死体と、それを成した自分の手。生き残った安堵もあった。
全ての感情が無になった。
ただ、後ろに誰もいないというだけで。
誰かを殺しても興奮しない。
死体という人形が増えていくだけ。
あの赫い血を見ても物足りない。
ひりつく空気、硝煙の香り、土埃の風の味。
全てが無色だった。
お前は簡単に死んだ。
流れ弾に当たって、呆気なく。
死体は回収出来なかった。する気がなかった。
どうでも良かったから。
入れ替わった副官はすぐ殺した。
当たり前のように俺の後ろに立とうとしたのが、見えないのに目障りだった。
誰も俺の後ろに立たなくなった。
命の危険性が増したというのに、少し安心した。
仲間も俺の死を望んだんだろう。
戦場で敵に囲まれた。助けは来なかった。
ただし敵も味方も俺を見くびっていたようだ。
片腕を吹き飛ばされながらも、生きて帰還した。
味方は全員、化け物を見る目で俺を見た。
ようやく気づいた。
自分の異常な強さを。
アイツだけが、俺を化け物として見なかった事を。
当たり前のように後ろにいたのは、本気で守ろうとしていたことを。
化け物のような俺を、アイツだけが人として見ていたことを。
無色な世界。当たり前だ。
お前を失った日から、俺は生きようとしていない。
敵に勝っても、戦果を上げても。
生き残ろうとも、殺す罪悪感が血と共に溢れようとも。
どうでもいい。どうでもいいんだ。
お前のいない世界で、生きたくない。
これは前世の記憶。
あと憶えているのは、隻腕になったことで退役させられたこと。
残った方の腕で、自分の腹を刺したこと。
最期に見た自分の血が、赫く見えなかったこと。
死に際に思い描いた、俺が振り返ると必ず見えたアイツの顔が。
鮮やか、だったこと。
4/18/2026, 1:42:08 PM