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ルール

「うまそー」
椅子の背もたれを前にして座るポルトガルが、すう、とその匂いを堪能するように深く息を吸う。
「うわ、お前いつ来たん、びっくりした」
その意味と裏腹に平坦な調子で言いながら、スペインは手にしていた平皿を食卓の中心に置いた。黄色く歪なく丸いその姿は太陽を連想させる。スペインの作るトルティージャはほかの家庭のそれと比べても多く具材を盛り込むせいで、厚さは2cm以上になることも多々あった。ポルトガルが今日見たところでは、ちょうど2cmというところだろうか。
「なあー、ルール決めようや」
「ルール?なんの?」
ポルトガルはスペインが向かいに座ったのを確認すると、背もたれの障壁を越え身を乗り出して、トルティージャの乗った平皿を持ち上げる。スペインの視線はポルトガルによって宙に浮かされた平皿にあった。
「半分は俺ので、もう半分はお前のな」
「お前に食わすために作ったわけちゃうねんで?」
ポルトガルの言う"ルール"に、スペインは口元をひくつかせた。
「ええやんか、あの頃に比べたら、随分可愛ええ分けっこ、やろ?」
あれは痛快やったなあ、ちょうど境の土地はどうするんやーって散々揉めたよなあ、そう楽しそうに呟くポルトガルの姿はなんだか懐古主義の呆けた老人のようでもあって、この男相手に真っ当な文句をぶつけるのはなんだか馬鹿らしくも思えてきた。
スペインは後ろを向くと、キッチンに備え付けの引き出しからフォークを1本取り出す。それを遠慮なくポルトガル目掛けて投げつける。ポルトガルは投げられたフォークを僅かに慌てながらもどうにか掴んだ。
「ほい、食え。その代わり残したら許さんからな」
スペインの言葉に、ポルトガルはフォークを握ったまま笑う。
「ほな、いただきまあす」
ポルトガルのフォークが、トルティージャに突き刺さった。

4/24/2023, 11:48:29 AM