〔手を取り合って生きていくことが大切だと僕は思います。
僕たちは手を取り合うことで生きています。誰もがひとりでは生きていけないのです。温もりがほしいときもあります。生きているから泣きたいときだって笑いたいときだってあります。僕らは手を取り合うことで……〕
そこまで読んで耐えられなくなり、天井を仰いだ。
……そういえば、そういう子どもだった。
そういう綺麗事で塗り固めた文章を夏休みの最終日に書いて、秋ごろになったら入賞したという通知が先生から必ず来ていた。
「…くだらな」
書いた当時は満足していたんだろう。本当にそう思っていたんだろう。
だが、今になってみると、呼んでいるこっちが吐き気がしてくるような綺麗事の塊だ。
折り目がついている原稿用紙を乱暴に閉じてもとあったところより深い場所に隠した。
手を取り合えば寂しくない。
手を取り合えば笑いあえる。
手を取り合えばひとりより、ずっといい。
じゃあ、軽蔑と侮蔑で心が冷えていくこの現象はなんだ。
分かっている。
多分俺は他人と手を取り合うことを、生きることを、諦めているのだ。
人の温もりなんぞに疑いしか持てない。その魂胆はなんだ。俺に何を求める。近寄るな。そんなことしか考えられない。
そうは思ってもその本心を他人に見せるわけがない。
それは、誰しもに当てはまることなのだろう。
そうして、俺らは完璧な仮面で今日も手を取り合う。こころのなかは軽蔑と侮蔑で冷えきったまま。
─手を取り合って─ #2
7/14/2024, 12:29:50 PM