【明日、もし晴れたら】
天気予報はちゃんと見ていた。
降水確率はそれほど高くなくて、本当に降るかどうか微妙なところ。少し迷って、傘は持たなかった。
結果、賭けは惨敗。午後の授業の途中から降り始めた雨は下校時には土砂降りだった。
「あれ、篠崎。もしかして傘持ってないの」
校舎から出られなくて途方に暮れていたら、後ろから来たクラスメイトの須藤に声をかけられた。
「うん……ここまで降るとは思わなくて」
「これ使って」
須藤が鞄から折り畳み傘を出して、押し付けてきた。
「でも、これ借りちゃったら」
「置き傘あるから大丈夫!」
そう言って、須藤はニコッと笑った。
借りた傘はありがたく使わせてもらって、ちゃんと一晩乾かした。翌日の朝、須藤に返そうと、丁寧に畳んで鞄に入れた。
「まさか、今日も雨とか……」
須藤の傘を返すことしか頭になくて、自分の傘を持ち忘れていた。
「いいよ。もう一日くらい。それ使ってよ」
須藤の笑顔は今日も眩しい。
その次の日も雨だった。須藤に謝り倒して、返すはずの傘をまた借りた。自分の傘をわざと忘れたわけじゃなかった。でも。
これを返してしまったら、君と話す理由がなくなっちゃう。
明日、もし晴れたら。
流石に傘を返さないわけにもいかない。
だから、本当にもし晴れたら。
ちゃんと「友達になろう」って言おう。
君は優しいから、きっと「もう友達でしょ」って言って、また笑顔を見せてくれるだろう。
8/2/2024, 4:00:39 AM