『何もいらない』
先王の崩御から三年。謎の流行り病だった。少なくとも民にはそう公表されると、目の前を歩む小さな背中は死んだような目で告げた。
世継ぎができたと喜んでいた妃の顔は今でも覚えている。
なぜかその後先王のお渡りが極端に減り、妃は子を瞳に映さなくなり、子は自然と私になついた。
熱にうなされたとき、私の指を離さず乳母やメイドを困らせたものだった。
「カイル。私が道を違えたときは遠慮なく私を打て。聞かぬなら斬り伏せろ」
「そのようなことは」
「下劣な血が半分でも流れた体だ。もう半分も似た者に成り果てつつある」
先王の病は、一言でいえば女狂いからきた自業自得な毒からくるものだった。盛ったのは王の愛人。協力した従者は妃の愛人だった。妃は今も愛人を増やしつつある。かくいう私も誘いは受けた。
貴女の娘以外、私はもう何もいらないというのに。
性別を隠して次の王との繋ぎをすると告げられた日、お付きの者で支えると皆で心に決めた。
その日ほのかな私の初恋は終わりを告げた。
4/21/2024, 5:16:44 AM