ひらりひらりと舞い落ちる白い結晶とは対照的な暖かな色合いのテーブルカバーのかけられた机の上。サンタ帽を被ったカボチャのぬいぐるみと掌サイズのツリー 食べきれないぐらいの料理たちが鮮やかな色合いを生み出す。
─ 手作りピザにクリームシチュー·骨付きのチキンにドリア,ポテトサラダにトルティーヤ ポタージュとオムライス それからワイン ─
出来た傍から,所狭しと並べらるそれは,どれもこれも全部私の好物。出来立てがいいと我儘を言った時からずっと続く特別な日のいつもの光景。
作りすぎなことをわかっていても,食べきれないと知っていても,あえて作る消費しきれない料理。
─── きっとそれはあなたの愛の形。
いつだってあなたの優しさにただ甘えて 当たり前に受け取って,ひとり幸福に浸っていた。
でも,でもね。今年は違うんだ。
今年からは,私もあなたに返せたらとそう思うから。
たったひとつだけ自信を持って作れるケーキ。決して難しくはないけれど,あなたの好きなスイーツのひとつ。
プレゼントと言うにはお粗末かもしれないけれど,ちょっとしたサプライズ。
私の作ったケーキがお店で売られているの。そう言ったらあなたはどんな顔をするのかな。
小さなイタリアンレストランで提供されるそれ。私の料理で笑顔になる人がいるんだって そう伝えたい。
おしゃれだと言って貰った。美味しいと言って貰えた。幸せだとそんな声が聞こえた。誰かが写真に撮る音が鼓膜を揺らした。
凄く幸福な思いを感じる。なにかを作り出す悦び。人に認められる嬉しさ。料理人でもパティシエでもない私が店の看板商品のひとつを作っているのだと そう誇った。
······でも足りない。一番食べてほしい人は,元気付けて笑顔にしたい人は,そこにはいなかったから。
誰よりも大切なあなたは,この店には来ないから。どんなに上手に作れるようになってもこの味をあなたは知らない。
そう。今日までは。
蕩けるように甘いクリームとほろ苦い珈琲の染み込んだ生地。交互に重ね合わせたそれにココアを振りかける。
作り慣れたお菓子。いつもと同じ分量。体が覚えている動き。お店の味を違う場所で,たった一人のためだけに作り上げる。
他でもないあなたに食べてほしいとそう願ったから。美味しいとそう言ってほしかったから。
30㎠ 二人で食べるには大きすぎるケーキ型一杯に詰め込んだティラミス。
わかっていた。それでも,食べきれないほどに作りすぎてしまったそれはきっと
─── あなたへの愛の証拠
テーマ:«イヴの夜»
12/24/2022, 3:01:01 PM