川柳えむ

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「次の目的地は『静かなる森』だ」
 勇者が言った。
 仲間の僧侶が説明を入れる。
「別名『沈黙の森』。そこでは魔法が一切使えなくなるという森です」
「だから、私達がついていっても足手まといになるわ」
 魔法使いの言葉に、僧侶も頷く。
「安心しろって。俺達が守ってやるから。な、勇者」
 戦士が「任せとけ」と胸を叩く。勇者も頷いた。
「俺達は4人でパーティーなんだ。誰も置いていかないさ。一緒に行こう」
 僧侶と魔法使いは困ったように顔を合わせた。
 しかし、勇者の自信に満ちた目に、微笑んで溜め息を吐いた。
「わかりました。一緒に行きましょう」
「役に立たないって文句言わないでよ?」
「泥舟に乗ったつもりでついてこい」
「泥舟じゃダメなのよ」
「よし、行くぞ!」
 こうして、勇者パーティーは静かなる森へと向かった。

 そして、すぐに帰ってきた。
「…………無理だ。俺達には」
 みんな世界の終わりのような、絶望した表情を浮かべている。
「あんな、何一つ喋ることすらできない場所なんて無理だー!」
 静かなる森――名前の如く、全ての音が掻き消されてしまう森。木々のざわめきや鳥のさえずりも聞こえない。魔法も使えないし、会話すらできない。
「めっっちゃストレス溜まる!」
「魔法はどうでもいいけど、会話すらできないとか!」
「私達には厳しいですね……」
 この勇者パーティー。とても仲が良い。
 暇さえあれば、いや、なくてもずっと喋っている。
 そんなパーティーの最大の敵は『沈黙』。つまり、会話ができないことだった。
「どうする! 勇者!?」
「そうだな……」
 目を閉じて熟考する。
 そして、勇者の出した答えは――、
「諦めよう!」
「だよな!」
 まぁダンジョン一つ飛ばすくらいどうってことないだろう。そんなノリで旅は続く。
 彼らはまた新たな目的地を目指すのだった。


『静かなる森へ』

5/11/2025, 5:27:46 AM