「あ」
仕事終わりの真夜中の帰り道。月夜に照らされた灯りのない道中に後ろから影が迫ってきていた。後ろを振り返ることなく、同じ帰路に就いているのだと決めつけ、特に危機感を持たずに前を歩く。
相手の歩く速度は自分と全く同じであり、こちらの歩くペースを上げると向こうも寸分違わぬ速度を出してくる。気味が悪くて仕方がない。追いつくことも追い抜くこともしない。ただ俺の後をつけている。それはそれで気色が悪い。
なんなんだろうと思っているうちに自宅近くのコンビニに辿り着く。中に入ると後ろの気配は消えており、コンビニ店員も怠そうにレジに立っている。何か不気味なモノにつかれていたわけではなさそうだ。だからと言って振り返ることはないのだが。
適当に買い物を済ませて店から出るとまたそいつは出てきた。もうどうにでもなれと自暴自棄気味に自宅に向かう。家に着いて布団に入る。鍵も閉めず、着替えもせず、そのまま夢の中に旅立つ。
「あ」
翌朝。朝食中、ふと昨日のことを思い出す。そして、考えの至らない自分自身のことを、疲れきるほどの仕事をさせる会社を馬鹿にするのであった。
5/17/2024, 1:03:00 PM