「私が思うに、日記というものはそもそも、誰かに読まれることを想定したものではなくって……他の誰にも知られたくない、自分自身との会話の積み重ねの記録というか」
目の前の勉強机の上に、日記が置いてあった。控えめなラメがきらきら光る、パステルピンクのカバーの日記。普段はシンプルなデザインの持ち物ばかりのこの部屋の持ち主にしては、可愛らしいな、と私は思った。
「つまり、人の日記を見るなんて大変悪趣味、ということなんだけど」
ごくり。
◇
「ごめんね〜! わざわざうちまで来てもらったのに待たせてしまって」
「ううん、大丈夫だよ」
結局私は、日記を開かなかった。
理性の勝利である。
自分だって、人に日記を見られたら嫌だもんね。
この部屋の持ち主である彼女が、荷物を下ろしながら私に笑顔を向けた。
「でもよかった安心した」
「ん? どしたの」
「や、なんでもない。
これからも、あなたのこと信じてるよ」
『閉ざされた日記』
1/19/2024, 4:16:57 AM