素足のままで
素足のままで、
夜の砂浜を歩く。
奥底に昼間の温もりを、
抱いたままの砂粒は、
何処か生温い。
なのに、
君の手はとても冷たくて、
君が此の世から消えていく、
そんな気がして、
繋ぐ手の力を少し強くする。
君の微かな歌声が、
夜の海に響く。
空に月さえ浮かばない、
静かな新月の夜。
濁った日々の中で生きるには、
君の心は余りに透明だった。
しかし、冷たい人々の群れは、
そんな君を受け入れては、
くれなかった。
そんな君が消えていく。
こんな日が来る事は、
分かっていた。
だが、私には、
君を一人で行かせることは、
出来はしない。
初めて君と会った、あの時。
君を護ると決めたのだから。
素足のままで、
海へと歩を進める。
海水の冷たさに、
一瞬身を竦めるが、
もう、私達は止まれない。
黒く蒼い海が、
私達を包み込む。
もう、苦しまなくていいのだと、
波の音が、歌っている。
そんな気がした。
8/27/2025, 7:32:56 AM