運命を、信じていた。
赤い糸は、好きな人と絡めば、解けないものだと思っていた。父さんや母さん、おばあちゃんやおじいちゃん、みんなと同じように、何となく結婚して何となく家庭を築けるものだと。
だから、これは夢だ。悪い夢。きっといつもみたいに、やかましい目覚ましで目を覚ますのだ。
そう、思っていた。
でも空は橙色のまま。カラスが鳴いて、吹奏楽の音が聞こえるだけ。
いつもは何も感じなかった人の足音、息遣い、瞬きすらも陰鬱に感じる。
そしてふっ、と我に返る。頭は空っぽで、手に力は入らなくて、呼吸も意識的。
だから、と思った。これは現実。
そこからは早かった。感情の壺は壊れ、理性と感情が喧嘩する。理性を使って何とか押し出した言葉は、そっか、だった。
胸に穴が空くなんて嘘だなんて思っていたけれど、本当に空くとは。
何より驚いたのは、胸に穴が空くほど、そいつが好きだったという事実。
愚痴も言った。悪い所も知ってる。けど、いい所もかっこいい所も沢山知ってる。
感情が流れ出す。理性は負けたらしい。梅雨のようにポツポツと、そしてザアザアとが涙が溢れる。
なんとなくなんて無かった。今のままなんて無かったんだ。進むか、壊れるか。赤い糸は細いまま、ぷっつりと切れた。ような気がした。
ほつれた赤い糸はぶらんとなったまま動かない。絡まったと思っていた糸は、結んでいただけだった。それなら解けてしまう。でも、絡んでいるのもどうかとも思う。
切れた糸の修復方法を私は知らない。生憎、もう数ヶ月でここを出るのだから知らなくてもいいか、なんて顔を覆って強がった。
どこかの少女漫画を思い出す。こんな恋をしたいだなんて言っていた彼女に、運命の赤い糸を信じていた彼女に、心の中で教えてあげる。
──レモンは酸っぱいだけじゃなくて苦いんだよ、って。
6/30/2021, 11:29:36 AM