130.タイムマシーン『こんな夢を見た』『逆光』
こんな夢を見た。
夢の中で、俺は見渡すかぎりの大草原に横たわっていた。
いつから居たのかは分からない。
だが、とても居心地が良く、いつまでも身を委ねられる気がした。
だが、一つ奇妙な点があった。
その草原は闇の様に黒かった。
緑色の草は一本も生えておらず、黒い草しか生えていない。
異様な風景であったが、不思議と嫌な感じはしなかった。
夢だったからかもしれない。
どれくらいそうしていただろうか。
ふと、視界の隅に動くものがあることに気づく。
ゆっくりと顔を向けると、そこにヤギがいた。
ムシャムシャと草を食べている。
ヤギが草を食むのは道理だが、なぜか説明のできない焦燥感に駆られてしまう。
追い払うべきか迷っていると、ヤギがこちらに気づき顔を上げた。
「どうも、おじゃましてます」
そう言って、お辞儀するように頭を一段下げる。
俺も釣られて頭を下げると、ヤギは満足そうな笑みを浮かべて言った。
「実は私、未来から来ました」
「未来?」
「はい、タイムマシンで」
『ヤギがタイムマシンに乗って過去へ』
荒唐無稽な話だが、ここは夢の中。
俺は疑うことなく、ヤギの言葉を信じた。
「なぜ過去へ?」
「もちろん、草を食べに来ました」
「それはおかしい。
お前のいた未来でも、草はたくさん生えているだろう?」
俺がそういうと、ヤギは悲しそうな目をして言った
「残念ながら、私のいた未来ではこの草原はないのです」
俺は思わず目を見開いた。
うっかり夢から覚めてしまいそうになる。
「なぜそんな事に?
こんなに豊かに生い茂っているのに……」
「分かりません。
少しずつ数が減っていき、私のいた未来ではほとんど絶滅してしまいました」
「そうか……
ならば防がないといけないな。
前兆のようなものはあったのか?」
「そうですね。
発端は、白い草が生え始めた頃でしょうか。
始めは数も少なく気にも留めてなかったのですが、次第に数を増し、段々と黒い草が生えてこなくなり……
ああ!!!」
突然ヤギが叫び出す。
「どうした?」
「あ、あれを見てください」
ヤギの視線を追った俺は、息をのんだ。
この草原の悲劇の予兆、不吉の象徴。
白い草が、ポツンと一本だけ生えていた。
「もうダメだ、おしまいだ」
「落ち着け、まだ一本だけだ。
あれさえどうにかできれば――」
だが、それ先は言うことが出来なかった。
黒い草が、見る見るうちに枯れていったからである。
「馬鹿な、早すぎる」
俺が嘆いている間も、黒い草がどんどん枯れていく。
そして枯れた跡からは白い草が芽吹き、草原が白く染まっていく。
その光景に恐怖を感じたが、自分には止める術がない。
そもそも何が起こっているか分からないからだ。
だが恐怖は終わらない。
その白い草すらも枯れ果て、大地がむき出しになり――
◇ ◇ ◇
「――ろ。
おい、起きろ!」
「うーん」
体が揺らされる感覚で、意識が夢の世界から浮上してくる。
さっきまで見ていた光景が夢であることに気づき、俺は心の底から安堵の息を漏らす。
「うなされていたぞ。
大丈夫か?」
「あ、ありがとう。
悪い夢を見ていた」
そう言いつつも、目の前の人物が誰か分からない。
家族の誰かだろうが、逆光で眩しくて顔が見えないのだ。
「早くリビングに来い。
母さんがご飯を作っているから」
「うん」
そこで声の主が誰か気づいた。
父親だった。
しかし父親の顔は、逆光で未だに見えない。
なんでこんなに眩しいのか、不思議に思った。
そして、すぐに気づく。
父親の頭が光っているのだ。
正確には、父親の毛の無い頭に、蛍光灯の光が反射しているのである。
それに気づいた時、俺は猛烈な不安に襲われた。
聞いたことがある。
夢は、体が発するメッセージであると。
その時は眉唾だと思ったが、今なら信じることができる。
そして確信した。
さっき見た夢は、紛れもない体からのSOSであるということに。
「顔が真っ青だぞ。
本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
「水でも取ってこようか?」
「いや、それよりも……」
俺は自分の頭を触りながら、震える声で言った。
「育毛剤、使っていい?」
1/31/2026, 9:34:35 AM