紅月 琥珀

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 私は魔術が好きだった。
 学べば学んだだけ様々な術を習得でき、また新たに術を作ることが出来るのが最大の魅力に思える。
 それこそひらめきさえあれば、可能性は無限に広がる。そんな魔術が大好きで、これからもずっとこの場所で、それこそ死ぬまで学び続けるのだろうと思っていた。
 けれどもそれは、私の一方的な思い込みでしかなかったらしい。

 ある日の研究で、私は世界間移動術式の実験に成功した。もうすぐ開かれる魔術学会のレポートのために、ずっと頑張って来た研究がここにきて成功したのだ。
 結果として私は無実の罪に問われた。浮足立ってた私は、それをよく思わない人達に嵌められてしまったのだ。
 世界は一気に激変した。今までレポートを出す度に称賛されていた私の研究は全て誰かの盗作扱い。
 話をしようにも聞いてもらえず、ひどい時には暴力を振るわれた。
 だから私はせめてもの意趣返しとして、記者会見を開きそこで全てを話した後⋯⋯世界中に中継が繋がる中で、あの時完成した世界間移動術式でこの世界から逃げ出した。

 初めての異世界旅だった。実験の時は試しだったから直ぐに元の世界へ帰ってしまったから、ろくに観光もしていない。だから、そこがどんな世界なのかわからないまま飛んだのだ。
 最初に訪れたのはあるウイルスが猛威をふるう世界で、たまたま学んでいた魔導医学の知識でそのウイルスに効く魔法薬を開発―――提供したらとても感謝された。
 何なら英雄扱いで凄く萎縮してしまったのを覚えている。
 それから魔術のない世界で変な化け物と戦って窮地にたたされた人類を魔導具を使って手助けした時も、救世主と持て囃されてまた萎縮してしまった。
 ある時は着いた時点で世界の滅亡まで1ヶ月って所で、私の持つ全ての魔術知識を使って滅びを回避した事もある。

 そんな私は今、もう滅びてしまった世界にいた。
 そこは文明が滅びてから久しいらしく、まだ建造物などは残っているが、蔦に覆われていたり既に崩れて瓦礫と化していた。
 植物は生い茂り、虫たちのパラダイス状態だ。
 そんな中でも動物達は強かなもので、元気に駆け回っている。
 今降り立ったばかりの終わった世界。
 自然豊かと言えば聞こえは良いが、文明の痕跡が残っている世界規模ジャングルと言ったほうがしっくりくる。
 建造物があるのなら思念読取りで色々わかりそうだ。
 私はこれからどんな歴史(ものがたり)に出会えるのか、心を躍らせながら世界を歩く。

 きっとこの先死ぬまでそうするのだろう。
 まるで渡り鳥の様に、世界から世界へ。
 終わりのない旅路に、好奇心が疼いた。
『さぁて、まずはどこから観てみようかな?』
 そう口にしてからジャングルをかき分けて、私は世界を知り記録していく。


 三千世界の渡り鳥 気まぐれ日記より

1/31/2025, 3:19:25 PM