鶴上修樹

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『ススキ』

 俺が久々に実家に帰ると、いたのは親父一人だけだった。やかんでお湯を沸かしながら、テーブルに並んだ和菓子達をのんきそうに見ている。
「……お前か。全く、ただいまの一言くらい言わないか」
「言ったよ。てか、お袋はどうしたの」
「近所の奥様連中とお買い物。お留守番の俺は、一人でおやつの時間だ。お前もどうだ」
「断っても出すだろ。いただくよ」
 俺がそう言うと、親父は「そこで待ってろ」と、縁側の方を指した。縁側から見える庭はススキがたくさん生えており、風でそよそよと揺らいでいる。
「庭、ススキだらけになってるじゃん。手入れとかしないの?」
「俺も母さんも年だ、腰が痛くなる。あと、ススキだけが生えている庭も悪くないだろう」
「その感性は分からないけど……まぁ、いいか」
 二枚の座布団を敷いてから縁側に座り、ススキを眺める。俺に見られていても、ススキは細い身体を揺らしたまま、何もしてこない。どうぞご覧くださいと言わんばかりの様子である。
「……待たせたな」
 親父が持ってきたのは、湯のみに入った熱い緑茶二つと、皿に置かれた醤油団子八本だった。
「団子、ずいぶん多くない?」
「四本じゃ、すぐに終わるだろ。だから二パック開けた」
 親父は俺が用意した座布団に座った後、醤油団子を一口食べて、緑茶を飲んだ。俺も醤油団子を手に取り、ぱくりと頬張る。甘辛い醤油のたれが美味である。
「……ススキを見ながら息子と縁側で団子と茶を嗜むの、悪くないな」
「ススキ、関係ある?」
「風情があるだろう」
「ある、のか……?」
「お前も歳を重ねれば分かる。ほら、お茶が冷めるぞ」
 親父に促されたので、緑茶を口に含ませた。舌に刺すくらい熱いが、香りは良い。
「親父、お茶が熱い」
「その熱さも良いだろ」
 親父は、口元をゆるませた。

 今日も俺は縁側に座り、熱い緑茶と醤油団子を嗜みながら、風に揺れるススキを眺める。
 ――親父。俺はようやっと、分かった気がするよ。
 緑茶をすすり、ほぅとひと息。親父の写真が、老けた俺の隣で微笑んでいるのだった。

11/10/2024, 2:00:56 PM