G14

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「アイツ、どこ行った!」
「まだ近くにいるはずだ、探せ」

 俺を見つけ出そうと、辺りを捜索する警備兵の二人。
 二人の男は、乱暴に周囲の物を殴り飛ばす。
 そうすることで、隠れている俺をあぶりだそうとしているのだろう。
 二人はどんどん近づいてくる。
 それに対して、俺は『近づいてきませんように』と神に祈るしかなかった。

「くそ、ここにはいないな」
「向こうに行ったかもしれない」
 だが神に祈りが通じたのか、側で隠れている俺には気づかず、二人の男たちは遠くへ去っていく。
 どうやら窮地は脱したようだ。
 俺は安心感から、大きく息を吐く。
 いったいなぜ、こんな事になってしまったのか。
 なんの役にも立たないと分かっていながら、俺は少し過去の事を思い出していた。

 ◆

 俺は、破壊工作専門のスパイ。
 基地のシステムを乗っ取って、基地の破壊の手助けをするのが俺の主な任務だ。
 俺は今まで、いくつもの基地を破壊してきた。
 俺に乗っとれないシステムは無い。

 俺は長い間この仕事を続けているが、これまでずっと失敗をしたことは無い。
 達成率100%の凄腕エージェント。
 それが俺。

 これまでも完璧、これからも完璧……
 そのはずだった。

 その基地は警備が厳重だった。
 警備の薄い基地など無いのだが、今回は特に厳重だった。
 今まで見たことがない厳重さに、俺は攻めあぐねた。
 そこで俺は、リスク高い手段を取って侵入することを選んだ。
 このまま見ていても、なにも始まらないからだ。
 しかし、それがいけなかった

 断言するが、油断は無かった。
 俺は自分の持っている技能全てを駆使し、侵入を試みた。
 リスクを取ったとはいえ、半ば成功を感触をつかんでた。
 俺にとって計算外だったのは、これまでの基地の警備兵より、この基地の警備兵がはるかに優秀だったと言う事。
 そして最新の防犯設備によって、すぐに俺の侵入が察知され、追いかけられる羽目になった。
 そして今に至る。

 ◆

 だがいつまでもこの場所にいても状況は好転しない。
 俺は自分の命すら投げうって、任務を遂行することを決意する。
 この基地のシステムさえ乗っ取れば、すぐに応援が来る。
 そうなれば、たとえ基地を破壊する前に俺が殺されることになったとしても、俺の勝利だと言うことが出来る。

 今後の方針は決まった。
 あとは実行するだけ。
 死の恐怖と戦いながら、俺は自らを奮い立たせる。

 俺は、早速周囲を伺う。
 物音一つない静けさ。
 どうやらこの辺りには警備兵はいないようだ。
 この隙に、隠れていた物陰から出る。
 はやくシステムを乗っ取って、応援を――
 
「引っ掛かったな!」
 物陰から出た瞬間、聞き覚えのある声が聞こえた。
 声の主は、遠くへ行ったはずの警備兵だった!
「お前は囲まれている。
 諦めるんだな」
 周囲を見渡せば、数えきれないほどの警備兵に囲まれている。
 万事休すだ。

「見つかったスパイがどうなるか……
 お前は知っているか?」
 俺を囲む包囲網が、少しずつ狭まっていく。
 どこかに突破口は無いのか?
 このままじゃ俺は……!

「スパイの末路は――それは、みじめな死だ」
 俺は大量の警備兵にもみくちゃにされ、意識が重く沈んでいくのだった。

 🤧

「うん、37度5分。
 まだ熱はあるけど、一晩寝たら直るでしょう」
「うん」
「風邪薬が効いて良かったわ」

 目の前にいる母親が、安心したように笑う。
 心配してくれたのだろう。
 なにせ私が人生で初めて風邪をひいたのだ。

 家族が揃いも揃って、『バカは風邪をひかないって言うのは嘘だったんだな』と言われた。
 失礼な話だが、私もそう思ったから何も反論できなかった。
 それほどの衝撃だった。

 それにしても、風邪をひくことがこんなに大変だとは思わなかった。
 私は今日、学校を休んだ。
 それはつまり仲のいい友達に会えないと言う事。
 やたらめった人肌が恋しい。
 みんなは私がいなくて寂しいと思ってくれるのだろうか?

 ……もしかしたら思ってくれてないかもしれない。
 いつも騒ぎすぎて、私怒られるもんな。
 うるさい私がいなくなって、『今日は静かでいいね』とか言ってるかも……
 やべ、泣きそう。

 ……はっ、いかんいかん。
 風邪をひくと、弱気になるって言うのは本当だったようだ。
 嫌なことを考えず、ポジティブな事を考えよう。
 例えば明日学校に行けばみんなに会えるとか。
 うん、元気出てきた。
 
「ああ、そうだ」
 母さんが、今思い出したと言う風に声を上げる。
「さっき、あなたのクラスメイトからお見舞いを貰ったわよ」
 と言って、私の前に大量のお菓子を渡してきた。

 私は、袋に入ったお菓子を受け取って、思わず息をのむ。
 受けっとった袋は、お菓子が詰められてパンパンに膨らんでいた。
 そして、一つ一つは大したことのない重さで軽いお菓子も、ここまで来ると少し重い。
 なんというか、これは凄いぞ。

「みんなお大事にって言ってたわよ。
 愛されているわね」

 これまでずっと我慢してきたって言うのになあ。
 私は友達の優しさに触れ、嬉しさのあまり少しだけ涙がこぼれるのだった。

7/13/2024, 3:41:24 PM