いしか

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声が聞こえる。誰の?
私には、誰の声も聞こえない。聞きたくないから聞かないんじゃなくて、本当に私の耳は聞こえない。
生まれた頃は聞こえていたけれど、今はもう聞こえなくなってしまった。
そんな私は、中途失聴者というのだろうか。
耳は聞こえないけれど、それ以外は、他の人と何も変わらない。

トントン。
私の肩を叩いた人。
「おはよう。待った?」
口をはっきり動かして、手話を使って話しかける彼。
私の為に手話を覚えて、私の世界を感じてくれようとする人。
でも、私の世界は、彼の見ている景色と何も変わらない。変わらないの。

「おはよう、待ってないよ」
私は普通に声を出して会話する。
中には声を出さず、手話だけで会話する人もいるけれど、私は意地でも声を出す。
間違えていようが関係ない。
もし間違ってしまっても、優しく正してくれる人としか付き合っていないと思ってる。
強がりで意地張りな私のくだらないプライド。

それに、彼は気づいていない。
彼は、私の為に手話を覚えてくれたけれど、
私は口の動きで会話はわかる。
百発百中なの。
でも、彼には秘密。

彼の手の動き、綺麗な指先、大きい手のひら
ごつごつと骨ばっていて、血管の浮き出てる手。
その全てが好きで、そんな好きな手を使って手話をしている彼が好き。

だから、もう少し秘密にするの。

私ったら、性格悪いね。

9/22/2023, 10:46:00 PM