「ラジオネーム、先生のメガネにイタズラしたい平凡な学生、くん。お便りありがとう。先生のメガネにイタズラするのは良くないからやめたほうがいいだろう」
勉強の合間に聞く週一回の楽しみ。それがこのラジオだ。元教師だとかいうアイドルがメインパーソナリティをしているらしい。名前は忘れた。声色は硬くダイアモンドのようで、毎回ご丁寧にふざけたラジオネームにツッコミを入れている。真面目も真面目、超がつくほどの堅物なんだろう。クラスメイトがメガネをした銀髪のアイドルなんだと噂していた気がするがよく覚えていない。
時刻は時計の長針がてっぺんに到達しそうな頃。そろそろ寝なければいけないが今日のノルマがクリア出来ていないから無理だ。僕が決めた訳では無いが、終わり次第報告をしなければならない。このラジオを聞いているのだって本当は内緒なのだ。
「最近勉強しても成績が伸びません。両親の期待に応えられるような結果が出せなくて、辛くて、勉強なんてもうやめてしまいたいんです。どうしたら上手くいくんでしょうか。
…沢山努力している君の気持ちは十分に伝わってきた。だが、勉強の目的が両親の期待に応えるため、というのは申し訳ないがいただけないな。
勉強というのは、自分の為にあるものだ。知識とは何物にも変え難い財産であり、その習得に費やした時間は無駄にはならない。けして誰かの為に行うものではないんだ。
上手くいかないこともあるだろう。挫折することは誰しも望まない。それでも挫折や失敗から学べることも沢山ある。私も教師からアイドルになってから気がついたことが山ほどある。その知識や学びを君たちとこれからも共有していきたい。上手くいかなくたっていい。辛い時には私たちや今も一緒に勉強している仲間がいることを忘れないでくれ」
思わず眼から涙が溢れていた。独りじゃない。上手くいかなくたっていいんだ。
…ひとしきり泣いたあとに僕はまたペンを握った。僕のために、勉強するために。
8/9/2023, 1:24:24 PM