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草木も揺れない寂しい廃墟で黒い服を着た少年は空を見上げる。
かつて緑が生い茂り、人々が行き交っていたはずのこの世界。
とある戦争を機に、全てが全てが焼け焦げて色を失った、この世界。
少年は視線を戻すと服のポケットから手のひらにのるほどの小さなアルバムを取り出す。
ばらり、と捲るとそこには少年と、もう1人の快活そうな、赤い服の少年が笑顔で映っていた。
アルバムを捲っている少年は、いわゆる人造人間、と呼ばれるものだった。完全な機械と違い、クローン人間を元にしているため、感情を持っており、戦争が起きる前の世界では友達やら恋人として人間と暮らすことが多かった存在だ。

写真の中でピースをしている赤い服の少年は人間。戦争で焼けて、血の一滴も遺さずにいなくなってしまった。当時、2人で公園で遊んでいたところに人類史上最悪の兵器による光が2人を包んだのだ。
人造人間、特にこの黒い服の少年には類まれなる防衛機能が備えられていたこと、ちょうど建物の影になっていたことで彼は生き残ったのだった。
写真の中の2人の後ろには、どこまでも続く星空が映っている。ちょうど、この廃虚の空と同じような。

少年は再び空を見上げた。
あの時は、ふたり一緒に見あげたその先で流れ星を見つけた。また見つけられたら、かつての想い出に浸れるような気がしたのだ。
ぐるりと空を仰ぎ見て、上へ下へと忙しなく視線を動かす。きらり、と視界の端で光るものが見えた。
慌ててそちらを見やるもすでに光は消えてしまっていた。肩を落とすもつかの間、ちょうど見上げた視線の先、煌めく星々の中で一筋の線が走る。

「……また、君と遊べますように」
友達だった、否、友達の少年は既にこの世にいない。だからこれは叶わない願いだ、そう分かってはいても3回同じことを繰り返すのをやめることはできなかった。
流れていった先をしばし見つめ、少年は歩き出す。どこへ行くとも分からないまま。
再び流れた星が彼の後を追うように、すぅ、と光の筋を描いて消えていった。

4/25/2024, 1:10:46 PM