なのか

Open App

いつから夕方なのか。そんな疑問が瞬く間に膨らんでいって、帰り道はあっという間に影を伸ばした。
「だからぁ、オレンジっぽくなったら夕方なの。四時とか五時とか、時間じゃなくて」
女子の間で流行しているリュックサックを肩にかけ直しながら、ユズはそう言った。呆れた口調は、明らかに無理解な自分に対するものだった。
「大体、夏と冬でも時間によって違うんだから、時間で決めたら違くなるに決まってるじゃん」
「でもさ、天気予報では十五時から十八時の間らしいよ」
「そんなの、気象予報士が勝手に言ってるだけじゃん」
彼女だって勝手に言ってるだけなのだけれど、今つつくと破裂しそうなので黙っておく。
「じゃあ、オレンジっぽくなったら夕方なんだとして、雨の日はどうなるの?」
彼女の言い分を全面的に認めてしまえば、雨や曇りの日は夕方が存在しないことになってしまう。
言わんとしていることに気付いたのか、ユズは押し黙ってしまい、気まずさを埋めるために小石を蹴り始めてしまった。別に突き詰めて考えたい訳でもないので、なんとなく分担しながら小石を蹴って運ぶ遊びに興じる。
「やっぱり、時間なのかな」
蹴る足は止めずに、彼女はそう呟いた。
「自分で言っといてなんだけど、夕方って聞くとイメージするのはオレンジの方だよね」
薄くたなびく雲を伝って広がっているオレンジ色の空と、コンパスで作図したかのような輪郭の太陽。
「うん、そのイメージある」
「だね」
小石はユズのミスショットで道路へと飛び出てしまい、小石を追っかけて足元を見ていた視線は自然と上へ向いた。
「ねぇ、今何時?」
空を見上げたまま、ユズはこちらを見ようともしなかった。
「十八時十一分」
ユズはそれ以上何も言わなかったし、こっちも敢えては聞かなかった。彼女はその時、はっきりと夕方を見ていた。
「綺麗だね」
「うん、綺麗」
頷くことすら忘れてしまった彼女の袖を、少しだけこちらに引く。十八時十二分に戻ってきた彼女は、照れたように微笑んだ。

6/14/2024, 6:06:26 PM