終わらない夏
「先生、僕、夏は嫌いです。」
朝の診察で病室に入るなり、起き上がったベットの背もたれに寄りかかる彼は言った。彼の腕に繋がれている点滴の滴下液が規則正しいリズムで滴下する。
すぐ近くから聞こえる呼吸音は、生きてるっていう証で。
彼もずいぶんと大きくなったなぁ、と考えた。
「なんで嫌いなの?夏。」
ベットの横に置いてある丸椅子に腰掛けて、俺は青年に質問した。
彼はぷいと窓側を向いて頬っぺたを膨らませた。
「だって、夏はしたい事が沢山あるのに、1つも出来ないんだもん。」
「例えば何がしたい?」
「海に行って泳いだり、虫取りをしたりしたい。叶うのか、、分からないけれど、」
「そっか........」
彼の目は悲しそうな寂しそうな、そんな目をしていた。
そっか、そりゃあそうだろう。
彼は幼い頃から重い病気を患っていて今まで病院で過ごしっぱなしだったのだから。もう10何年の付き合いだった。
青年はそのまま俯いてしまい、
「でも大丈夫。まだ夏は始まったばかりだし、2週間後には花火大会だってあるし。俺たち先生方も付いてるんだから!」
「、うん」
きっと、彼も分かっている。
彼の病気は治せないから、夢は叶うことがないって。
この繰り返される闘病生活での夏が終わらないってことを。
8/17/2025, 1:36:37 PM