椎乃みやこ

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「明日なんて来ないよ」
 ふてくされた顔で君は言う。
 泣き腫らした目が瞬きするたび、濡れた睫毛がきらきら光っているように見えた。赤みがかった頬も、すんと鼻を啜る音も、君は悲しくて辛いはずなのに、それを愛らしいと僕は見惚れてしまう。
「あの子がいない世界に、明日なんてこないの」
 君の手には、空っぽの鳥籠がある。
 あんなに大事にされていた小鳥は、君のほんの不注意で空へと旅立ってしまった。
「野良猫に食べられそうになったって、知らないんだから」
「お腹が空いたら戻ってくるのかもしれないよ、明日とか」
「明日なんてないの!」
 止まったと思った君の瞳から、また涙が溢れ出す。鬱陶しそうに手の甲で拭って、僕を睨んだ。
「明日なんてもうないの!」
「明日も僕はいるよ」
 不意をつかれたように、君は瞠目させた。唇をわずかに震わせて、僕になんて言い返そうか考えている。
「明日も明後日も、僕は君と小鳥を探すよ」
 追撃をしたら君は、ふくれっ面になってしまった。
「勝手にすれば!」
「うん、勝手にする」
 歩き始めた君の隣に僕は並ぶ。君のほうが僕より背が高くて、君のほうが僕より少し年上だ。今は子どもだけど、大人になるとこの年の差はあまり気にならなくなるらしい。
 もしも未来が見れるなら、この先も君の隣を歩いていたい。
 君のふてくされた顔を、君より背が高くなった僕で眺めたいから。


お題「もしも未来が見れるなら」

4/19/2023, 2:47:09 PM