きゅうり

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初々しいしくて、瑞々しいような青春時代のような恋とは、ずいぶんかけ離れているような私たちですけれど、あなたから花束を貰った時には、年甲斐もなく胸がときめいたんですよ。

そう言って笑う彼女の笑顔は、歳を重ねて顔にシワが刻まれてしまっても、花が綻ぶように綺麗で、可愛らしいものだった。


それにあなた、大好きな君へなんてメッセージまで。

ふふふと笑う彼女の笑みには、明らかにさっきよりもからかいの意が含まれている。
確かに、50年も寄り添った伴侶に送る言葉にしては、直接的で捻りもない言葉だったかもしれない。
でも、恋愛下手な私が、恥ずかしいながらどうにか考えたものだったから、そこら辺は大目に見て欲しかった。

そんなことをブツブツと言い訳しながら言うと、また彼女は笑う。

別にからかってるんじゃありませんよ。

十分からかってるじゃないか。

ふふ。だって、あまりにいじらしいものですから。

認めたな?

初めて言う私への愛情表現の言葉が"大好き"だなんて、誰が想像できたって言うんでしょうね?

頼むから、もうやめてくれ。



あまりにも面白そうに、楽しそうにする彼女の顔が見られるのは悪くはないが、これ以上は私の羞恥心が持たない。
恥ずかしくて、顔から火が出そうな程だが、それでも、この言葉をメッセージカードに書いたことを私は後悔していなかった。

なぜなら、さっき彼女が言っていたように、私も年甲斐もなく、目の前の伴侶が自分が送る愛の言葉を受け取ってくれることに胸を弾ませているからだ。

"大好き"という言葉は、確かに拙く、洒落た言葉ではない。
だが、この言葉は、正真正銘、一言一句、嘘偽りない私の心からの長年持ち続けた、真っ直ぐな想いだった。






―――綴る言葉 (2/24 ―結婚記念日への後日談にあたる)

お題【大好きな君に】










3/4/2024, 4:20:10 PM