山岸は、外に出るのを嫌がった。
山岸の部屋は、普遍的に小綺麗なかんじである。
学校からのプリントが山ほど溜まることなど、もうないので、山岸の部屋は散らからないのだ。
山岸は、家中でこそあれば、横暴である。
血の繋がりをなしにすれば、世の女性すべてに無関係であるくせに、ソファへドン、と座り込み、その尻で占領する。
ただし、家中であるといえど、大声、騒音を漏らすことはない。山岸は臆病であった。
普段から、コソコソとその生活を営む。
山岸は思っている。自分はネズミに似ている。
山岸は、コウモリが好きだ。
夏のゆうぐれ、山岸の部屋から見える、田畑に隣接する、雑木林には、それらがよく飛びにきて、鳥より見事な旋回、飛揚、洗練された飛行を披露してくれる。その度、山岸は目を奪われるのだ。
コウモリのために、双眼鏡も買ってある。
山岸は夜になると、近くの山へ歩く。
5分ほど歩いていると、古くなったアスファルトの道が見えてくる。
平坦な道でこそあるが、それはほとんど獣道のようなかんじで、木や草は当たり前に生い茂っていた。
街灯などはもちろんないが、懐中電灯で照らせば、前は見える。
ほんの少し、その道を進めば、左手に、年季がかった下水道の穴が見えた。
山岸は素人だが、もう使われていないものであることは、確かだった。
懐中電灯の光を弱め、その穴へ山岸は潜った。
少しだけ腰を屈めなければいけないくらいの大きさ。ぬるい空気が詰まっている。
奥へ、奥へ進むにつれて、その下水道はクネクネと軌道を変えていることが分かった。
そのために、後ろを振り返っても、三日月の光はない。懐中電灯も照らしてみるが、やはり暗い道が長く続いているだけだった。
前へ向き直ると、キラッと眩しく光が弾ける。
山岸は驚いたが、それが少し先に溜まった水の仕業であることがわかった。
懐中電灯の光を反射したのだ。
しかし山岸は落ち込んだ。
水が溜まってるとなると、これ以上の探索は不可能に近い。
山岸の靴は運動靴だからだ。濡れては母に叱られる。
山岸はコウモリを探していた。元きた道を辿っている途中、こぼれる三日月の光が、山岸を僅かに慰めた。
1/10/2024, 3:05:00 AM