#鋭い眼差し
鋭い眼差しの人々が、迫って来る。
猫のように切れ上がった目で、私を取り囲む。
「よう来たな、元気そうやないか」
「こき使ってやるから覚悟せえよ」
「今度という今度は、帰さんからな」
「やめて…」
私は怯えたように、じりじりと後退りする。
とたんに弾ける笑い声。
ここは山間の小さな集落で、特徴ある皆の目は、先祖が近いからかもしれない。
大学のサークルで農業体験に来て以来、私はこの里がすっかり好きになり、毎年田植えと稲刈りの時期に、休暇を取って訪れている。
住人の方々とも仲良くなり、いつも「帰さない」と絡んで来るのは、毎回お宅に宿泊させてもらっている源さんだ。
源さんは特に私を気に入ってくれて、役場に勤める息子の嫁に…と、企んでいるらしい。
実は息子の悟さんとは、何度かこっそり街で逢っている。
皆の細めた目を見ていると、もし本当に悟さんと結婚したら、可愛い猫目の子供が生まれるかな…と、私はほんのり想像した。
10/16/2024, 1:16:41 AM