昔は、虹が出た時は隣の家のあいつとよくその虹の方へと走ったもんだ。
あの時は、俺もあいつも虹は端のようなもので虹の始まりを信じていたもんだ。
今、俺は社会に飲まれ、取引先の帰りである。
涼しいタクシーから見る眺めというものはいかにも複雑である。あの頃に戻りたいと何度思ったことか。
虹はさわれないし。きっと、虹に始まりなんてないんだ。
その時、俺はタクシーの窓から虹を見た。
それは能天気に鮮やかに、あわやかに、思い出を
抉るように。
俺はタクシーを出てあの虹に向かって走り出した。
あの虹の始まりに、あいつがいる気がする。
あの虹の始まりを追って。
7/28/2025, 2:23:40 PM