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それは例えば花に込めて渡すような
それは例えば宝石に込めて贈るような
それは例えば一杯のカクテルを君に勧めるような

そんな遠回りな言葉。
ずるくて小心者な僕からの精一杯の言葉。

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付き合って初めて貰った赤い薔薇の花束には、白いアザレアの花を返したの。
付き合って暫くして結婚を意識した時に贈られた薔薇の名前を持つ宝石がついた指輪には、涙声での返事。
そのあと貴方にオレンジ色のサードオニキスを着けたネクタイピンを贈ったの。
それからもずっと貴方は折につけて花を、そしてたまに宝石を贈ってくれた。
貴方のその不器用さに少しだけ不満はあったの。
でも貴方の瞳や態度は言葉なんかよりお喋りだったから私はそれで満足してた。
その分、私が言葉で伝えようと思ったの。
最初だけはあなたに合わせたけど、その後は出来るだけ言葉で返したの。

大好き
愛してる
ありがとう

いいコンビでしょう?私たち。

ねぇ、でも貴方。
あのカクテルの意味だけは私まだ分からないでいるの。

どうして貴方はあのとき、私にあのカクテルを贈ったの?

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君と「もう一度素敵な恋を」してみたかったんだ。
別れるつもりなんてないよ

泣きそうな顔をした君に慌てて僕がそう言うまであと少し。

10/26/2024, 4:00:42 PM