踊りませんか
眩しく、真っ白に光り輝く地面。
前には暗闇が広がっている。
酷く暑く、熱気が漂う。
そんな場所に、僕は立っていた。
数多の視線が僕を突き刺す。
この瞬間が、永遠に続けばいい。
『あぁ、貴女はなんて美しいんだ。』
黒い彼女の元へ僕は駆け寄る。1歩1歩、慎重に、そして即座に。
今夜の彼女は艶やかで、そんな姿にも見惚れてしまう。
僕は胸に手を当て、そして彼女を指した。
今この瞬間、言葉は存在しない。あるのは音楽と、自分の動き。
あの闇の向こうの人々にも、この言葉が伝わるよう、そして彼女に伝わるように指先まで意識を巡らせる。
頭上で手を大きく交差させながら回す。
『私と、踊りませんか。』
美しい彼女は膝を曲げてうなづいた。
彼女と手を合わせた僕は、ステージの中央へと彼女をエスコートした。
彼女が白鳥のオデットではなく、悪魔の娘、黒鳥オディールであることを気づかず、今から彼女と踊る。
それが僕の役。バレエ、白鳥の湖。ジークフリード王子だ。
この初のプリンシパルとしての舞台は、永遠に忘れられないだろう。
10/4/2024, 11:29:51 AM