〈お題:旅の途中〉
旅をしていると、「旅の目的地」についての質問をよく頂く。斯くいう私も旅をする前ならば同じ質問を旅人に繰り返し聞いていた。
この質問は一つ大きな思い違いをしている。
そして、それ以上に核心的な質問である。
旅を始めてから…ある日を境に私は返答を変えた。「旅そのものが旅なんですよ」と旅をして気が付いた事を意味有り気に語って聞かせることにしたのだ。
旅人にとって旅とは何か。
「今、この瞬間。この空間。この時間」この全て。それが旅で得られるモノである。お金に変え難い、時間をかけなければ得られないモノ。
旅をしてみれば、「明日に備える」ことよりも「今この瞬間をどう過ごす」かが重要だと知れる。旅の資金は潤沢ではないけれど、「旅行ではない」からこそ「苦労も苦痛も、旅人として受け入れなければならない」んだと割り切れる。
嫌な事が多いのは当然として今日を振り返る。
「今日、素敵な何かに巡り会えたか」
「話を聞いてくれる人は会ったか」
「私は健康か」
「私は今、旅を続けられているのか」
嫌な事が多いのは当然として、このどれか一つに「はい!」と答えられる今日が"悪い日"であるとは到底思えない。今日も良い日になった。
「現地の人に比べて異臭を放つ私を訝しげに見ていたか」
「特に仕事も無く彷徨っている私がやった事は悪事だったか」
「私が善意で助けた人々が私の容姿を非難したか」
「私は誰かに迷惑をかけたか」
このどれか一つに「ノー」と言える今日が「悪い日」とは到底思えない。
旅が続けられるだけの「健康」それこそが私の原動力であった。そして毎日が「最悪」でないことを旅をして証明している。
「あぁ、そうだった…」
私は旅人に出会うと必ず同じ質問を繰り返す。
「旅の途中ですか?それとも旅はもう終わってしまいましたか?」
1/31/2025, 4:10:04 PM