その翅を透かしたあなたはすっかり自然と化してゆく。甘い甘い液をストローで口に運んで。
せっかくたっぷりと入れたのに。
「もう、いらないのですか」
「うん。おなかいっぱい」
「……もう少し、食べられませんか」
「んーん。いらない」
私室から出なくなったあなた。
カーテンを開ければ透き通る白さが儚い。あなたの髪も肌も何もかもが白く、すべてに吸収されて奪われてしまってゆくようにさえ思えてならない。
窓辺の縁に手を掛けてぼんやりと外を見つめて。
こうなってしまってからは、あなたの世界は籠のようになってしまった。
飽きもせず、飽きることもなく、羨望のように。
時折ぼそっと呟くあなた。
「もっかい…行きたいなぁ」
それが永遠に出来なくなった口ぶりで、そう言う横顔には影が落ちて、カーテンに隠されたり。
わたくしに気づけばいつも通り――――に見せかけているスマイル。気怠そうに声を弾ませながら、あそこに行きたいあれがしたい、と。
楽しそうに。
寂しそうに。
切実に。
けれどわたくしはどうしても胸騒ぎが、ここからあなたを出してはいけないと。
ぼろぼろと涙を流すあなたにわたくしはとても後ろめたい。
「……そろそろ暑くなってきましたから、紫蘇ジュース、どうですか?」
「うん」
「メロンフロート好きだったでしょう?」
「うん。ありがと」
そうやって少しずつ、少しずつ。
なんだか、国語の教科書が、道徳が、時間の無駄だったとわたくしを罵るように。
#モンシロチョウ
5/11/2023, 1:12:14 AM