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[刹那]

"私、引っ越すんだ"

そう言って彼女が遠い異郷の地に旅立っていったのは、もう何年前になるのだろうか。
当時別れが辛くて顔をくしゃくしゃにしたまま泣いていた幼子はもう、高校を卒業するような年になってしまった。

正直、彼女との記憶はほとんど覚えてない。
彼女の名前も顔も声も全て、ずいぶん前にすっかり忘れてしまった。

彼女もきっと、忘れているだろう。

それでも何故か、桜が春を告げる頃。
ぼんやりとした思い出の世界に、彼女は現れる。
もう切り倒されてしまった大きな桜の木の下で、柔らかく微笑んでいる彼女が。


そんな忘れることのできない刹那を抱きしめて、春を生きている。

4/28/2024, 12:16:45 PM