友達と別れて帰路についたとき、雨が降ってきた。困ったな、傘持ってないのに。
にわか雨と言えども柔らかく降り注ぐ雨粒は、僕を優しく撫でていくようだ。春先の気温に合わせてか、雨はやや温かいように感じる。嫌な気分ではなかった。
家まではあと少しだけれど、寄り道がてら目に止まったバス停に入って雨をしのいだ。今にも崩れそうな東屋だが、実のところ、僕が小学生の頃から存在している。案外強いんだな、と何様目線で見直した。
備え付けの古びたパイプ椅子に腰掛けると、椅子はギシッと音を鳴らす。あまり椅子に負荷をかけないように、バッグを膝から下ろした。
特にすることもなくて目を閉じると、錆び付いたトタンの屋根に雨が当たる音が空間全体に広がるのが分かる。なんせ僕1人入っただけで、もう半分のスペースを占めてしまう広さだ。おまけにトタン張りだから、よけい反響しやすいのだろう。
カーン、コーン、コン、コン。
トトッ、カーン。
その音がなんだか心地よくて、しばらくこうしていたくなった。
背もたれに体重をかければ椅子がギシギシと軋む。そんな音でさえも嫌とは感じなかった。
(——少しだけ)
少しだけ、このままでいよう。
目を閉じたまま、僕はゆっくりと深呼吸する。息を吐き出しきる前に、頭が眠りにつこうとしたのが分かった。
それに抗うこともないまま、僕は眠りに落ちていった。
11/6/2021, 2:57:11 PM