谷折ジュゴン

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創作「友だちの思い出」

「おう、おはよう」

「おはよう。あれ、その腕どうしたの」

今朝、友だちが右腕にギプスをはめて登校してきた。かなり心配したが、やんちゃな彼ならそんなこともあるのだろう。しかし、本当に何があったのだろうか。

「昨日の夕方、自転車でこけた、めっちゃ痛かったぁ。それよりも擦りむいた所の消毒の方が痛かったのがびっくりした」

「あぁ、しみるからね。そうか自転車か」

彼が意気揚々と自転車を飛ばし、曲がり角でブレーキをかけ損ねて盛大にすっ転ぶ姿を想像する。彼曰く、上手く転んで打ち所は良い方だったらしい。

「だけど、右利きだよね?字は書けるの?」

「うん!」

そう言い、ギプスをはめた方の手でペンを持つ。そして、国語のノートの隅にいつもよりヨレヨレの字で「おはよう」と書いた。

「え、左手で書かないの?」

「うん。痛みはないし、良いんじゃないか」

「そういう問題かなぁ、ホントに痛くないの?」

「痛くない。何か痒くはあるけどさ」

そう言いながら彼は、骨折した方の手で字を書いたり、ちょっとしたものを持ったりしていた。見ているこっちとしては、気が気ではなかったが、彼自身、タフなもので、昼休みには級友たちと校庭でサッカーや鬼ごっこに興じていたのだった。

数日後、彼からは担当医に叱られた話を聞いた。当然といえば当然なのだが、しょっちゅう包帯や三角巾が泥で汚れていたうえ、本来の予定よりも治りが遅くなっていたらしい。

「しばらくは大人しくしとけってさ。あーあ、今日も遊ぶ約束してたのになぁ」

淋しげに言い、窓越しに校庭を眺める彼。いつもが元気すぎる分、弱気な彼を見ていると自分までしょんぼりしてくる。

そうして、もどかしい日々を経たある朝。彼は見事に復活していた。むしろ前より元気になっている気がした。とにかく、誰よりも校庭を駆け回り、はつらつとした「バリア!」の声が聞こえる日常が帰って来たのは、とても嬉しかった。
(終)

7/7/2024, 7:09:41 AM