いぐあな

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300字小説

山のお茶会

「今年は夏の君が居着いて……それがやっと去って、美しく化粧しましたのに」
「はあ……」
 秋の登山。鼻をくすぐった紅茶の香りに気が付くと、俺は紅色の着物を着た娘のお茶会に座っていた。
「なのに、しるばーうぃーくが過ぎたとかで誰も見に来てくれませんの! しかも秋の君があっという間に去ってしまって、来週には冬将軍が来ますのよ!」
 娘が文句を言いつつお茶を入れる。
「もう! 憂さ晴らしにヤケ食いですわ。付き合って下さいまし!」
 スコーンに葡萄に栗、薩摩芋に林檎。お腹がバンパンになるまで食べた後、ふわりと秋風が吹くと俺は山の麓にいた。
「夢……?」
 手には土産か、アップルパイ。
「……今年も綺麗でしたよ。来年もまた来ますね」

お題「紅茶の香り」

10/27/2023, 11:23:46 AM