海へ
「私は海から来たの」
お祖母様はそう言いました。
「海の中はとても綺麗だったのだけど、お祖父様に会いたくて来たの」
声は出ないし、足が痛くて大変だったけど、とお祖母様は少女のように笑っていました。
あれから何年も過ぎて、お祖父様が亡くなり、一日中ベッドで過ごすようになったお祖母様は、遠い目をして言いました。
「海へ帰りたい」
気弱なことを、と誰もが本気にしませんでした。皆に愛されていたお祖母様は大事にされて、城の中で過ごすばかり。
でも叶えてあげればよかった。せめて海のそばに連れて来てあげればよかった。
今日、私はお祖母様の髪を一房持って海に来ています。青い海に髪を流したら、すぐに消えていくでしょう。
きっと帰りを待つものがいる海の底まで。
8/23/2023, 3:13:21 PM