第二十七話 その妃、抱き締める
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それから、何度も枯葉色の世界が切り替わる。幾度となく夢を記憶を渡り歩けば、全く知らない国の状況なども帝以上には知ることができた。
(……飽きたわ)
ただここ暫くは、褒め称えられる帝の業績や、礼儀知らずな妃の悪口ばかりで、つまらないと言えばつまらない。
夢は無作為で、時系列に並べるには時間がかかる。此方からの干渉は殆どできないし、起きる時間など指定できない。でもそれだけだ。
ここまで大量の夢で、ずっと似た話を見たり聞かされてたりしていれば、少し考えただけで順番に並び替えることは容易だった。
『だから、いつまで泣いてるのよ、この泣き虫坊主』
だから、唯一困った事があるとすれば、夢の中で必ず、泣いている子どもに出会う事くらいで。
『……はあ。今度は誰に虐められたのよ』
『……おねえちゃん』
『そう。そのお姉ちゃんに何されたの』
『どうして。……しんじゃったのっ』
小さく蹲って震える少年の幼い体。
不思議なことに、夢の中で唯一、この少年とは話ができた。
ただの夢や記憶ではないのだろう。
黒く暗い世界に、少年はいつも閉じ籠っていたから。
『……小さな命を、守りたかったから』
『……っ。え?』
『あんたが知る必要はないわよ』
そっと、その小さな体を抱き締める。
触れられないから、何となくそうして。
『……だから、もう泣かないでいいのよ』
『……ぼく。わすれてないのに』
『ええ。そうね』
『わすれなかったら。あえるっていってたのに』
『だから、こうして会えたじゃない』
涙をそっと拭ってあげて。
拭えないまま、落ちていく涙に苦笑を浮かべた。
『……おねえちゃんに。あいたいよ……っ』
『……残念だけど、それは一生できないわ』
だってその子は、とうの昔に死んでしまったのだから――。
#小さな命/和風ファンタジー/気まぐれ更新
2/25/2024, 9:43:58 AM