季節が戻ったかのような鋭い風が吹く春の夜、屋上のフェンスの向こう側で、少女はひとり立っていた。その目はうつろで、足元もおぼつかない。
少女はほんの数時間前「病気の回復は絶望的だ」と告げられたばかりである。余命は病院ではなく、家で過ごすべきだと言う医者に従い、少女は明日の朝には退院することになっていた。
「ミサキ……」
少女は同室の少女の名を呼んだ。
ミサキと過ごす日々は、サツキにとってとても楽しいものだった。叶うものなら、残りの寿命も彼女と一緒に過ごしたかった。しかし、それではサツキの病気の事がバレてしまう。
「一緒に病気を治して、2人で遊園地へ遊びに行こう」
そんな約束を、してしまったから。
ミサキに知られるのは嫌だった。
サツキはグッと唇を噛み締める。足元が震える。それはきっと、寒さのせいのみではない。
「ごめんなさい」
とうとう膝から崩れ落ちて、サツキは大声で泣き叫んだ。しかしそのほとんどは、少女の肌を刺す風の音に飲み込まれてしまった。
おだやかな日差しが気持ちいい春の午後、病院の屋上のフェンスにもたれかかった少女は、ひとりごちた。
「サツキちゃん……」
かつて同室で、今は退院してしまった少女の名を呼ぶ。
「元気かなぁ……」
言葉は誰にも届かず、宙に浮かんで消えた。
4/9/2025, 3:20:19 PM