紫雨

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おかーさん!だぁーいすき!
そう言って私は母の胸に勢いよく飛び込む。優しい声、暖かい体温。全てが伝わってきて、思わずぎゅーっと抱きしめたくなるような。そんな母の愛情が大好きだった。

あれから何十年と経った。
私ももうすっかりおばさんと呼ばれるくらいの歳になってしまった。
「お母さん。おはよう。」私が、母の部屋に入ると
「どこなのここは!貴方だぁれ?私、自分の家に戻らなくちゃ!」そう言いながら部屋中を散らかしている母の姿があった。そう、母は重度の認知症になっていた。お父さんは母がまだ軽症の時に他界しているので、今お母さんを助けられるのは私しかいない。「あら?貴方どこかで見たことがあるわぁ。綺麗なお顔ねぇ…まぁ、なんで泣いているの?ほら、こっちに来なさい。私が拭ってあげるわ」
その言葉はまるで、小さい時好きだった母の愛情にとても似ており、私はまた、涙を流した。

12/10/2025, 4:50:42 PM