あいつはこの世界の王様だ。
このジャングルジムの頂上に立つ者が一番の強者だ。
昨日も今日も明日も来週も来月もずっとずっとあいつが王様なんだ。だから僕はずっとずっとあいつに仕える従者だ。
今日も城の上に立つあいつの命令に従って、下から攻めてくる敵を追っ払う。
僕はあいつには勝てない。ドッヂボールじゃいつもあいつにボールを当てられる。こないだの昼休みのサッカーはゴール手前であいつにボールを奪われた。さっき返された算数のテストもあいつは100点満点、僕は76点。喧嘩だって勝てた試しがない。
あいつになりたい。
なんで僕はあいつじゃないんだ。あいつとして生まれてたら僕の人生は最高なものになるはずなのに。
ずっと金魚のフンみたいにあいつの後ろについて過ごしてるけどあいつのことが好きなわけじゃない。本当は嫌いだ。あいつがいる限り僕は1番にはなれない。僕だって天下を取りたい。王様になりたい。
嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ…!!!!!
気づくと身体が勝手に動いていた。
明智光秀もびっくりの裏切り劇の開幕だ。
ジャングルジムをありったけの力を込めて駆け上る。
あいつはポカンとした顔をしている。
今がチャンスとあいつに手を伸ばした。
その瞬間視界が揺れ、真っ暗になった。
痛い。
あいつの他の従者に止められ、バランスを崩してジャングルジムの頂上から落ちたらしい。右腕骨折の大怪我だ。
ギプスが取れるまでの間、あいつは僕に優しかった。やっぱり嫌いだ。普段なら絶対こんなに優しくしないくせに。
僕には天下は取れなかった。でもいいんだ。僕は僕を僕の世界の王様にしてあげよう。
9/23/2024, 8:33:03 PM