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コッペパンを売っている人がいる店。
店は漆喰とレンガ造りで、紅白の屋根だ。
そうして、中には人がいてコッペパンを楽しそうに売っている。
女の子の名前はアンナといって、はすっぱなそばかすのちょっとブサイクな女の子だ。
彼女の名前は、お母さんがつけたもので、彼女はそれが好きではなかった。
だってアンナなんて名前、ありふれているじゃない。
アンナは思う。
(コッペパンを売るのは楽しいわ。私、今じゃすっかり、コッペパン屋のアンナさん。そう呼ばれるのが、日常になってしまって、コッペパン屋以外のお仕事は考えられないくらい!)
アンナはコッペパンが、好きではなかったのだけれど、コッペパンに何かを挟むのは好きだった。
月桂樹。
月桂樹が、店の名前だ。
店長はたまに、月桂樹を玄関ドアに飾る。
一番売れるメニューは、生ハムとマスカルポーネ。
今日も客が一人買っていく。
夕方、
「またね、アンナ!」
と、顔をほころばせながら。

10/30/2023, 10:17:39 AM