彩士

Open App

「私、預言者なの」

目の前の女が言った。
化粧バチバチで、髪の毛先を軽く巻き上げた女。
まあ、どこにでもいそうな奴だ。

この手のやつを相手にするのは面倒になる。
見ず知らずの俺に語りかけてくるのも解せない。
無視を決め込んでいると、
「あなた、一週間後この世から消えるよ」
と女の声が雑音に紛れて聞こえてきた。

死ぬんじゃなくて消えるんだな、と頭のどこかで思った。俺は、自分の死を知りたくない人間だ。特段、やり残したことも思いつかないし、死ぬからやっときたいことなんて、本当の願いかと言われるとなんか違う気がする。健康児の俺が今までやってこなかったのだから、それはやりたくなかったことだ、と考える。

家に帰ってニュースを見ると、なにやら隕石が近づいているらしい。肉眼で観測できる日が一週間後だってよ。なんの偶然か、俺が消える日と同じだなぁ。あの女の言うことなんざ、信じてねぇけど。

もしも、この隕石が地球にぶつかって、この世に生きとし生けるものが、かつての恐竜時代と同じ結末になるのなら、事前に知っておきたい。

その時は、どこかへ行くのではなく、馴染んだ家の中で彼女と一緒に過ごしたい。

ま、今いねぇけどな。

9/19/2025, 4:07:31 AM