光る苔

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どんなに離れていても、君に会いに行く。
そんな言葉はもう使われなくなった。

もう僕達は、誰か会えなくなると言うことが無くなったから。

僕と君が沖縄と北海道にいたとしても、
僕と君が日本とブラジルにいたとしても、
もしどんなに離れてたとしても。

僕らは出会えるようになった。
空を飛べば、絶対に会えるようになった。
海に浮かべば、絶対に行けるようになった。
土を蹴れば、絶対前に進めるようになった。

僕らが会えなくなるのに、距離は関係なくなった。

僕と君が友達同士に逆戻りしても、
僕と君が敵同士になったとしても、
もしどんなに離れたとしても。

僕らは出会えるようになった。
誰かを通せば、絶対に話せるようになった。
スマホを開けば、絶対に君と繋がれるようになった。
手を差し出せば、絶対に握り返してくれると思った。

僕らが会えなくなるのに、距離は関係なくなった。


僕らに距離は無くなった。
何メートルでも、何キロメートルでも、
関係なくなった。

僕らに距離は無くなった。
話せなくなっても、会えなくなっても、
繋がれるようになった。

けれど、僕らは遠くなった。

ATMの画面の数字を見る度に、
君の仮初の投稿を見る度に、
僕らは少しづつ会えなくなって行った。

僕らに距離は無くなった。
代わりに、いくつもの壁が出来た。

土日の朝が起きれなくなる度に、
朝のスーツに袖を通す度に、
僕らは少しづつ離れていった。

お金も、時間も、体力も、立場も。
どれか、ひとつを取れば小さな壁だ。
片足を上げれば乗り越えられる。

だけど、重なり合えば手は届かなくなる。
君の顔が覆い隠されていく。
君の姿が見えなくなっていく。

僕らの壁は、僕らの距離よりも大きかった。

もしどんなに離れたとしても、
平面だったら会えるようになった。

もしどんなに離れたとしても、
君が見えていたら会えることが出来た。

もしどんなに離れたとしても、
壁がなければ手を伸ばすことが出来た。

僕らの壁は、僕らの想像よりも大きかった。

けれど、僕は君に会う。
横の距離が無くなくせたのなら、
縦の距離を無くせば良いのだ。

ATMの0の文字を見つめた。
僕は空からの写真を投稿した。
日が出る前に家を出た。
スーツを着るのを辞めた。

僕らには壁があった。
見上げてもキリがない壁だ。
けれど、超えてみれば案外呆気ない壁だった。

僕の前には壁がある。
大きな壁がある。
僕は深呼吸をして壁を押した。

遠くでチャイムの音が聞こえた、気がする。
壁の向こうから君が走ってきた、音がした。


僕達は、誰か会えなくなると言うことが無くなった。

どれだけ離れていたとしても、
走り出せば、登り始めれば案外呆気ないものだ。

どれだけ離れていたとしても、
やっぱり、僕らは絶対に会える気がした。

4/26/2025, 10:48:54 AM