備忘録

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「待ってて」
その言葉を聞くとあの日の出来事が思い出されます。
この言葉はまさに母が私に言ったものでした。

幼少期、買い物をしていた母が急に買い忘れに気づいて買い物カートと共に私をその場にいるようにと言ったのです。たった数分、私は怖かったです。普段見ている景色なのに母が居ないというだけで異世界に飛ばされた感じでした。周りの大人が声をかけてくれました。だけど、優しい仮面をつけた怪獣にしか見えませんでした。店内BGMが地獄を想像させる鬼の笑い声に聞こえました。周りを見れば見るほど今まで見えてこなかった「未知」が湧き出してきました。

それ以来、私の日常には「未知」が居座るようになりました。簡単に言うと全てに疑問を持ち始めたのです。やかんが沸くと音を立てて、鳥は当たり前のように飛んでいて、それを母は気にせずに洗濯物を取り込んでいて、その洗濯物は乾いていて、他にも枚挙に暇がないほど「未知」は溢れかえりました。

十数年経ち、私は高校生になりました。やかんが沸くことも鳥が空を飛ぶことも他にもなんにも疑問に思わなくなりました。だけど私の中には「あの日の私」が今でもいます。なにかある度にこの子が泣いて、叫んでいます。たぶん全ての疑問は「未知」はこの子が受け止めてくれているのです。これは私だけじゃなくみんなそうなんだと思います。電車で居眠りするサラリーマンも2人並んで登校するカップルも教室で授業をする先生も同級生を指さしてヒソヒソ笑うあの子たちもテレビに映る芸能人も眉間に皺を寄せるお偉いさんたちも。みんなみんな自分の中に「迷子の小さな自分」がいるんだと思います。人間は成長すると体が大きくなって顔つきが大人になって。だけど、心がそれに追いつかなくて必死に追いつこうにも差は縮まらなくて。だから大人な自分を作ってそれが自分だって思い込んで生きているんです。みんな本当はこの世界のあらゆる「未知」に怯えているんです。みんな同じようで違って、違うようで同じなんだと思います。

私は「あの日の私」に謝らないといけません。
私の生活は今までもこれからも「未知」が沢山あってこの子に息つく暇を与えないからです。
「ごめんね」と だけど「大丈夫」
「私はあなたを救う存在になるから」
いつなれるのかもそもそもなれるのかもわかんないけど「未知」に会ってあなたが泣いても私がその涙を無駄にはしないからそのために生きるから

だから うんと長くなるかもしれないけど

「待ってて」

2/13/2024, 9:52:01 PM