27(ツナ)

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怖がり

人間なかなか、恐怖を克服するのは難しい。
わたしは子供の時分から虫がどうしても怖くて見ることすら億劫だった。
昆虫図鑑なんてものはただの地獄絵図だ。
「君は何に対して恐怖を感じる?」
暇つぶしに私の研究室に来ていた学生に尋ねてみた。
「恐怖、ですか。僕は何にも感じないですかね。」
そんな天邪鬼なことを言うからついわたしもムキになってしまう。
「怖いものがない人間なんていないだろう。真剣に考えてくれ。ちなみにわたしは虫が何よりも怖い。そうだな、例えば…霊だとか、狭さや暗さだとか、あとは死とか。」
「ははっ、虫怖いんだ?可愛いですね教授。…ん〜僕は虫平気ですし、狭いとこも暗いとこもなんとも思わない、死に対しても…特に恐怖はないですね。」
今どきの学生は皆こうなのだろうか?どこか達観していて、子供らしさが見当たらない。
無機質な人間だ。
「あ!強いて言うなら。人間、ですかね?」
「人間?」
「だって、人間は平気で裏切るし平気で嘘つくし、何考えてるかわからないし。げんに今、僕が先生に対して何考えてるか分かります?」
彼の目つきが変わりなんだか物々しい雰囲気にわたしは少したじろいでしまう。
「た、確かにわからないな。…ちなみに、今いったい何を考えている?」
「……他の研究室はどこも授業で出払ってる。今ここには僕と先生だけ。今ここで僕が先生を殺しても誰も見てないし誰にも聞こえない。後でこの部屋にトリックを使って内側から鍵をかければ密室殺人のできあがり。……なーんてね。」
確かに、人間も怖い。またひとつわたしにとって怖いものが増えた。

3/16/2026, 11:17:20 AM