国境の長いトンネルを抜けると外は豪雨であった。
川端康成よろしく雪国であった方が風情はあるが、実際の利便でいえば、まあ雨の方がよろしい。
列車が駅に到着する頃にも雨は続いており、駅舎の出口に人がたまっていて難儀した。
「こら、雨雲さんが誰かを追いかけとるわ」
「雨雲さん、どなたかお探しじゃのう。はよう見つかるとええが」
地元の人らしい爺さん方がカラカラ笑いながら言い合っている。
尋ねると、雨雲さんとよばれる神社があって、ちゃんとした名前は覚えていないが龍神様が祭られている。雨雲さんは土地にやってきた人間に気にいらんものがいると、神社にお参りにやってくるまで通り雨を降らすのだという。
お参りに行った途端に雨がやんだら、その人間が雨雲さんが気にいらんもの、ということになるらしい。
「気にいらんのに参拝せねばならんのですか」
「そらキミ、いっぺん顔見せい!挨拶しに来たら勘弁したるわってことやろ。温情、温情」
「罰が当たるわけでもなし、お客さんにはみんなお参り、行って貰わな困るわ!」
天候と反対に陽気な様子でカラカラ笑って、爺さんたちは慣れた様子で駅舎を出ていった。
話が本当なのかは自分にはとんとわからないが、宿に荷物を置いたあと件の神社にお参りすると、参道に入った途端に雨はスンとやんで空はカラッと晴れ渡った。
なるほど、温情、温情。
ところにより雨
3/24/2023, 12:41:55 PM