ハイル

Open App

【理想郷】

 俺は夢を見ていた。
 目を覚ませば、至るところに俺を好く女がいる。酒は湯水の如く湧いて出るし、嫌味ったらしい上司も俺に平伏している。
 俺はその国の絶対的な王者だった。何をしても許されるし、俺が言ったことがその国の秩序になるのだ。
 以前まで俺が暮らしていた国は、本当にどうしようもない場所だった。俺を馬鹿にする奴らばかりの、腐りきった国。
 頭ごなしに俺を否定する、人格が破綻した上司。俺の気持ちをちっとも理解しようとしない、口だけでかい女。少し社会に出るのが遅れただけで、そのことをグチグチと言い続ける毒親。
 あいつら全員腐ってやがる。俺は常日頃からそう思っていた。
 だから、全員手に掛けた。俺が新しい国へ行く前に、せめてもの配慮で全員あの世に送ってやった。
 あいつら、今頃閻魔様の御前で泣き喚いているに違いない。
 そう思うと、今までの鬱憤も晴れるようだった。死ぬ間際にも関わらず笑みが止まらない。
 俺は新しい国へ行くための切符を思い切り蹴り上げる。椅子がガコンッと倒れ、俺は宙吊りになった。
 意識が遠のいていく。待っていてくれ、俺の理想郷。

 目を覚ますと、はじめに飛び込んできたのは死体の山だった。腐乱臭と血の臭いが充満している。
 あちこちから想像を絶するほどの悲鳴と怒号が耳へ流れ込んでくる。

「俺じゃない、俺はやってない!」
「どうしてこんな酷いことするの、私じゃないんだって!」
「あいつが悪いんだ! 俺はこんなところにいるはずじゃないんだ!」

「さて、君の前科は?」

 いつの間にか、目の前には巨大な男が座っていた。口ひげを蓄えた威厳のある赤鬼。そいつが、私を見下してにやりと嫌な笑みを浮かべていた。

10/31/2023, 10:22:28 AM