「演奏者くんってなかなか気持ち悪いよね」
僕が発した『何か二人だけの秘密を持ちたいよね』に対する一発目の言葉がそれだった。
気持ち悪い⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
ただでさえ他人に言われると傷つく言葉を、よりによって好きな人に言われた、というショックに思わず崩れ落ちそうになるのをなんとか堪える。
「⋯⋯秘密っていいじゃないか」
「誰にも言わないから秘密なんじゃないの? 大体秘密にしたとこで誰かに聞かれたりバレたりすることはないじゃん」
「それはそうだけど」
でも二人だけの秘密を共有してるなんて、とても親密度が高そうで、要するに彼女ともう少し仲良くなりたいなどという気持ちだけで行動した結果だった。
どうやら乗り気じゃないらしい、と肩を落としてピアノでも演奏するか、とその場を離れようとした時に彼女は言った。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯好きだよ、君のこと」
「え」
「『二人だけの秘密』ね?」
足早に彼女は去っていったけど、僕はその場から動くことができなかった。
『好き』。彼女が、僕を?
あまりにも嬉しいことで、飛び上がりそうで。
でも、何となく冗談めいていて、まるで本心ではなさそうで。『二人だけの秘密』を確かめるわけにもいかなかった。
5/3/2024, 3:48:05 PM