羅針盤
LINEのアカウントを消すのは、これで4回目。
中学、高校、大学、元カレに消された時。
1回の不可抗力を除き、あとは全て自分の意思で消した。元彼に消された理由は、無い浮気を疑われてのことだった。無実の証明はなんて難しいのだろう。本当は悲しくなくてはいけないのに、私は消えたラインを見て心底安心していた。
人と繋がっていたいという感情は誰よりも強い。1人が怖くて、寂しい。誰かと笑い合いたいし、誰かと同じ希望を語り合いたい。なのに私はいつも、気づいたら今まで構築した人間関係を全て破壊している。
魔が刺すタイミングはいつも突然やってくる。
身を弁えず傷つく私の心は、いつも私が作り上げている。日々日常のなかでみんな傷ついているのに、私は小さな針一本ちくりと指先に刺さっただけで声も出せずに逃げてゆく。本来私は、最低な性格であっても良いのに、相手を嫌いになっても良いのに、突き放して距離を置くことは悪では無いのに。たった1人の拒絶や、たった一言の悪口で、私は全ての繋がりを絶ってしまう恐怖心で支配される。
病院に行っても、相談をしても、本を読んでも、やり方は書いていない。今抱えている問題と無数に繋がれたヒモには様々な事情が絡まっていて解けない。そこにべっとりと染み付く感情が邪魔をして、それを直視することから逃げ続けている。
私の羅針盤は、方向感覚を失ったままそこに存在している。たったひとりになった時に初めて、傷ついた心が癒えて、狂った部分が治り始めた気になる。そしてまた、大切な人、好きな人、優しい人が目の前に現れて、近づくと、磁石に拒絶するように羅針盤は狂い始める。
私の羅針盤には、人を示す機能はついていないのだ。
いままでそこに示されていたのは、そんな1人寂しさを覆い隠すための「証明」探しばかりだった。みんなが価値あるものを追い求めて、私は気がついたらよくわからない場所で途方に暮れていた。
私は頭の中で、
羅針盤を海の中へ落とした。
羅針盤は深く深く沈み、日の光すら届かない深海で粉々に散らばった。誰も作り直せず、誰も見つけられない。もし深海で動き出しても、そこに指し示すものは何も無い。
海の上で私は小さなボートに乗っている。
手には何も持っていない。
黒く汚い砂まみれの自分でだけがあって、
頬を触るとジャリッと音がする。
覆い隠すものがない日光が私の肌を焼いて、
不快な汗が頭から滑り落ちて喉が渇いた時、
私は羅針盤のことなんてもう忘れていた。
1/21/2025, 12:30:54 PM